無機的なシステムを愛せ

ベーシックインカム生活保護に関する

様々な主張や論争を見るにつけ、

つくづく、人間の感情に頼っていては人間は救われないな、

感情を排した無機的なシステムによってのみ

人間は救われるんだなと思う。

 

「人間の感情に判断をゆだねる」とか

「人間の感情にうったえる」とかいったことは

本当に無意味でそこに依存しては人間を救うことなどできない。

 

人間は個々の解釈で他者に優劣をつける。

ベーシックインカム生活保護の話になると

必ずと言っていいほど同じ意見が出てくる。

「貧しいのは自己責任だろう」

「自分たちの税金が使われるのは許さない」

「勉強してこなかった、努力しなかった本人が悪い」

そう言いたい気持ちも分かる。

究極、ベーシックインカム生活保護に反対する人たちの中に

渦巻いている感情は

「バカに金をやるな」「怠け者が楽をするのが気に食わない」

「頭の悪いやつは死んでも仕方ないだろ」

という非常に「人間らしい」ものだ。

 

人間には理性があるだなんていうのは上辺だけの話で、

根底には非常に動物的な

自然淘汰」や「弱肉強食」の本能があるのだろう。

常にどこかで食いものにされてたまるか、

食う側でいなくてはならないという強迫観念。

 

人間は結局、自分に近しい人以外の

自分の知らないところにいる劣った人間は

死ねばいい、消えればいいと思っている。

自分と近しい人さえ守れればよいのだから、

不安要素である不愉快で危険な他者は

いないにこしたことはない。

それがいい悪いではなくそれはごく普通の感情で

人間がみんな持ち合わせているものだ。

だからこそ戒めのためにあらゆる宗教は

自分の近しい人以外を、

隣人を愛せとわざわざ教えているのだ。

 

こういった人間の感情に

最終的なシステムの施行の判断をまかせていては

やはり間違いが起こるのは当然のこと。

 

人間の感情に判断をまかせて失敗している例として

飲酒運転の撲滅がある。

飲酒運転撲滅運動は大抵の場合

「あなたの家族が悲しむことになります」や

「被害者の悲しみを知ってください」などの

人間の感情に、それぞれの善意に

うったえることを前面に押し出していく。

 

しかしこれは悲しいことにあまり意味がない。

どんなに広く人々の感情にうったえても、

そこに何にも感じない人はいるし、

自分だけは事故を起こすはずはないと思う人たちもいる。

善意や想像力というものが欠落してしまった

人間というのは一定数確実にいるのだ。

 

だからこそ飲酒運転を撲滅するにはシステムに頼るしかない。

酩酊状態では運転することができない自動車が

普及しなければいけない。

一部ではすでに開発されているが、

呼気を吹きかけアルコールが検出されれば

エンジンがかからない自動車の普及でしか

飲酒運転は撲滅されない。

運転者が善意ある人だろうが

他人に迷惑をかけても何とも思わない人だろうが

アルコールを飲んだ人間には運転をさせない

無機的なシステムこそが必要だ。

 

一方で、

私は赤ちゃんポストは非常に優れたシステムだと思っている。

日本で赤ちゃんポストが導入される際には

やはりというか様々な意見が出ていた。

「赤ちゃんをモノのように扱うのか」

「赤ちゃんを捨てるような親なんてとんでもない」

など、これまたとてもまっとうな人間の感情だ。

 

しかし実績として

熊本県にある「こうのとりのゆりかご」では

運用10年間で125人もの赤ちゃんの命が救われている。

赤ちゃんポスト、運用10年で125人 熊本・慈恵病院 :日本経済新聞

 

赤ちゃんポストは完全匿名性で、

病院側は事前の相談をすすめているものの必須ではなく

誰がいつ赤ちゃんを預けてもよいことになっている。

無機的にポストは開いていて、

環境に恵まれなかった赤ちゃんを受け入れてくれる。

ポストはそこに赤ちゃんを預けにきた人を

どのような人物でも選別しないし、

計画性がない、愛情がないなどと責めることもしない。

 

もしも受け入れる病院側が

ポストに預けるかどうかを判断する人間を

そこに配置してしまっていたら、

これほど多くの命は救われなかっただろう。

 

最終的なシステムの施行の判断を人間がすることなく、

ただポストに赤ちゃんを入れれば淡々と命が守られる。

感情を排したシステムの成功だと思う。

 

話を生活保護に戻すと、

この制度の最大の欠陥は

「最終的なシステムの施行の判断を人間がする」ことだ。

人間はものごとを感情で判断するので、

生活保護を受けるやつはロクなもんじゃない」

「不正受給しようとしてるかもしれない」

というフィルターがかかり施行がうまくいかない。

結果、本当に生活保護を必要としている

人たちに制度が行きわたらない。

82歳母と52歳娘、孤立の末に 札幌のアパートに2遺体 「8050問題」支援急務 (北海道新聞) - Yahoo!ニュース

 

本当は必要な人にほぼ自動的に生活保護

行きわたるようなシステムになるのが一番いい。

(たとえば自治体ごとで健康診断などを行い、

著しく健康が損なわれているのに通院履歴がなく

数ヶ月後にも健康状態が改善しない人は

自動的に生活保護対象になるなど)

だがそれも難しいだろう。

 

だからこそベーシックインカムなのではないか。

「人間らしい」観点から言えば、

「怠けたものに金をやるのか」

「努力しないで金をもらったら堕落するやつが出てくる」

などの意見は出るであろうが。

それでも命と生活よりも優先させるものはない。

「とりあえず全員生きていける」

ことに不満を言うだなんてどうかしてるぜ。

人間の感情はいったん無視して

無機的なシステムを施行してはどうだ。

 

 

人間のやさしさ、思いやりそれ自体では人間は救えない。

人間を救うのは感情のない無機的なシステムだけ。

ただそのシステムを構築するまでには本当のやさしさと思いやりが必要。

 

 

頼むぜ、ベーシックインカム

ああ〜働かずに暮らしていきてぇ〜。