なにも

4歳の男の子が殺された。母親とその交際相手に虐待され、しんだ。

 

言えることはなにもない。なにも。

 

「人間は幸せになるために生まれてきた」と言う人がいる。

殺された男の子になにが言えるだろう。

「君はちがうけど多くの人間は幸せになるために生まれてきた」

と言うのだろうか。

 

「人生はすばらしい」と言う人がいる。

殺された男の子の前で言えるだろうか。

「君の人生は違ったけど私の人生はすばらしい」と。

 

「人生のすべてに意味がある」と言う人がいる。

殺された男の子の苦しみに何か意味があったのだろうか。

 

「人生とは魂の修行の場だ」などと言う人もいる。

殺された男の子は何を背負い何を得たのだろうか。

 

なんの理由もない。なんの結果ももたらさない。

ただどこまでも不条理なだけ。

誰かが代わりにどんなに幸せになったとしても

殺された男の子の苦しみが消えるわけじゃない。

 

世に溢れる言葉は「幸せになれる人たち」に向けられたもの。

誰しも不幸に巻き込まれたくない、見たくもない。

不幸はすぐになかったことになる。

 

道徳も

宗教も

スピリチュアルも

心理学も

なんの役にも立たない。

 

この世はからっぽで、からっぽなくせに

どろどろとドス黒いものがうずまいている。

たまたま逃げ切った人が「人生の意味」がどうしたとうそぶいている。

 

本当は

言えることはなにもない。

なにも。